IPO「ここは押さえたい」重要論点の解説「IFRSでの新規上場」

2015-02-26

本コラム“あらたなView”では、さまざまな市場や業種、サービスにおける最新情報について現場のナマの声をお伝えしていきます。第2回は、IFRS適用による新規上場のメリットとデメリットについて検討します。

IFRS基準の緩和とIFRS適用上場の解禁

2013年6月に金融庁企業会計審議会が「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」を公表し、これを受け、2013年10月にはIFRS任意適用要件緩和のための連結財務諸表等規則の改正が行われました。その結果、IFRSを任意適用できる会社(特定会社)の要件は下記のように緩和されました。
 

改正前

改正後

IFRSによる連結財務諸表の適正性確保への取り組み・体制整備をしていること

IFRSによる連結財務諸表の適正性確保への取り組み・体制整備をしていること

上場していること

国際的な財務活動または事業活動を行っていること

以上より、IFRSを任意適用できる企業が増加し、2015年2月25日現在、IFRSを任意適用している会社は38社、任意適用予定会社は29社となっています(東証ウェブサイトより)。
そのような状況の中、IFRSの任意適用の要件から「上場していること」が外れたことにより、新規上場時のIFRS適用が可能となり、「株式会社すかいらーく」「テクノプロ・ホールディングス株式会社」がIFRS適用による新規上場を成し遂げました。
そこで、今回はIFRS適用による新規上場のメリットとデメリットについて検討してみます。

IFRS適用による一般的なメリットとデメリット

まずは、新規上場企業に限らず、IFRSを適用することの一般的なメリットとデメリットについて整理してみましょう。

  • 【メリット】海外投資家からの資金調達や国際的な資金調達等、資金調達の多様化
    IFRSを適用している海外企業との比較可能性が向上するため、投資家やアナリストからの理解が得られやすくなります。これにより、海外投資家からの資金調達が容易になり、資金調達方法が多様化するというメリットがあります。
  • 【メリット】連結グループの財務報告の効率化、横並びで比較可能な業績管理指標
    海外各国においてIFRSへの移行が進行している中、日本の親会社もIFRSを導入することによりグループ全体で統一した財務報告制度を確立できます。その結果、海外子会社の財務諸表のレビューや分析等の相互チェックの効率化や、IFRSという統一言語によるグループ間コミュニケーションの向上など、連結財務諸表作成プロセスの効率化が期待できます。 また、全世界のグループ会社が同一の基準で財務諸表を作成することになるため、業績管理指標を統一化することができ、利益管理をより効果的に行うことができます。
  • 【メリット】M&A意思決定のスピードアップ
    海外会社とのM&Aを行うに当たり、ターゲット会社がIFRSを適用している場合、同一会計基準のもと、M&Aの効果分析や事前調査を比較的容易に行うことができます。その結果、M&Aの意思決定を迅速に行うことができます。
  • 【デメリット】個別財務諸表は日本基準での作成が必要
    IFRSを任意適用する場合、適用する対象は連結財務諸表に限定され、個別財務諸表は日本基準により作成する必要があります。また、会社法で作成が求められる計算書類についても、個別計算書類については日本基準による作成が求められます。したがって、両基準間の数値組み替えの手間が必要です。なお、個別財務諸表のみを作成する会社においても同様に、IFRSでの個別財務諸表に加え、日本基準での個別財務諸表を作成する必要があります。
  • 【デメリット】会計システム等の変更の負担が大きい
    従来利用していた会計システムが日本基準適用を前提としている場合、IFRSの適用により会計システム変更が必要となる可能性があります。また、会計システムのみならず、事業の基幹システムを全体的に変更する必要がある場合も考えられます。このようなシステム変更に対処できない場合、IFRS適用が困難になります。
  • 【デメリット】原則主義のIFRSには適用上の判断が不可欠
    IFRSは原則主義であり、適用に当たっては実態に合った会計方針を個別に判断する必要があり、経理の現場で高度な判断が求められます。会社全体でのコンセンサスを取るために時間を要する可能性があります。

IFRS適用による新規上場のメリットとデメリット

新規上場時からIFRSを適用する場合、一般的なものに加えて、以下のようなメリット・デメリットが考えられます。

  • 【メリット】上場当初から、海外投資家による投資や資金調達方法の多様化が期待できる
    企業の成長に伴う資金需要がある新規上場企業にとって、資金調達方法の多様化は、上場企業よりメリットが大きいと言えます。
  • 【メリット】IFRS適用時の負担が少なくなる可能性がある
    企業規模がまだ大きくない新規上場時にIFRSを適用したほうが、成長し規模が大きくなった状態でIFRSを適用する場合よりも、IFRS採用時の負担(IFRS導入コスト、システム変更等)が少ないと言えます。また、上場準備において経営管理体制等を整備する場合、当初からIFRSを念頭においた整備を行うことで、上場後にIFRSに変更する場合と比べてシステム変更等による負担が少なくなる可能性があります。
  • 【デメリット】上場準備段階においてIFRS導入コスト負担がある
    上場準備のコストに加えてIFRS導入のコストを負担する必要があります。コストの問題だけでなく、上場準備スケジュールや複数タスクに対応する社員の時間やりくりも厳しくなることが予想されます。

IFRSを新規上場から導入することに適している会社

新規上場時からIFRSの導入にはメリット・デメリットがありますが、下記のような会社には新規上場時からIFRSを適用することが適していると言えるでしょう。

  • 海外展開を行っている会社、今後海外展開を進めていく会社
    海外各国においてIFRSへの移行が進行している状況において、海外取引先と会計上の共通のモノサシで議論をスムーズに行うことが期待できます。
  • 上場後にM&Aを検討している会社
    現状、IFRSではM&A時において発生するのれんの償却が行われません。そのため、のれん償却費による業績への負担を回避することができます。
  • IFRS導入による影響が少ない会社
    比較的シンプルな事業形態の場合、IFRS導入による負担が少ないことが想定されます。そのため、いずれIFRSを導入するのであれば、新規上場時からIFRSを適用することも選択肢に挙げられます。

IFRS適用による新規上場のすすめ

以上のように、新規上場時にIFRSを適用することは、上場準備段階における負担増加というデメリットはあるものの、多くのメリットがあります。グローバル化が進展する現在においては、IFRS適用はもはやメリットというより必須条件になるとさえ言えるかもしれません。将来、海外展開やグローバル化を考えている企業の場合、「いずれIFRS」ではなく、「上場に向けてIFRS」というのも有効な戦略と言えるでしょう。

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